企業小説。
10月から、「主任」に昇格するみたいです。
って言ってもすごいことでもなんでもなく、
何も大それたことをせずに、粛々と5年勤めていれば、自動的になれる役職なんですけどね。
だからうちの会社は主任だらけ。
その上がつまってるからね。
そこから先に行くのがまぁなかなか難しいらしい。
それにしても主任になると何か変わるんだろうか。
いらん責任が増えるんだろうか。
「それではまず、主任になった暁に、このチップを喉に埋め込みます」
いともあっさりと、人事部のオギヌマは言い放った。
「え?埋め込む?どどど、どーいうことですか!?」
「そのままです。埋め込んでください。痛みはありませんので。」
「そんな、こ、怖いんですけど」
「ちっ…)みなさん何も問題なく働かれています。問題ありません」
「でで、でも埋め込むって言ったって、どーやって…」
「ほら、このチップのここ、ちょっと尖っているでしょ?これを喉に当ててぐっと、押し込めば、そのままスーッと入っていきますので。みなさんやられてますよ?シマダさんも、オカザキさんも、ヤマモトさんも」
その3人と同期のオギヌマはどうなんだ、と思ったが、とりあえずチップを喉に当ててみる。
「あ、痛くない…」
「でしょ?それをすこーし押し込んでみてください」
チップを持っている手に軽く力を入れて喉に押し込むようにすると、チップは自動的に喉の中に入っていった。どんな仕組みになっているのだろう。
「うわわ!入った!入ったけど、これご飯とか食べれるよね?」
「おめでとうございます!これで晴れて主任昇格です!」
オギヌマはおれの最後の質問には答えずそう言った。
「あなたの行動は、これから全てGPSで管理されます。また、先ほどのチップには生体センサーも備わっておりますので、通話の記録は元より、メールの記録なども、全て会社の管理下に入ります。もちろん、プライベートには干渉いたしませんが、主任として、節度のある行動を心がけてくださいね」
「えっ…それって…ただの会社の奴隷じゃ…」
「もし何か罰則規定に触れるようなことがあれば…」
「あれば…?」
「結構、痛いことが起こります☆」
「えーーーー…すげー嫌なんですけど…これ取れないの?」
「一般社員には取り除けないようになっておりますので、そのような気は起こさないほうがいいですよ。では、主任としてがんばって働いてくださいね!」
「はぁ…」
席に戻ってくると、横の席のヤマモトさんが話しかけてきた。
「ねえねえ、アンタも主任チップ埋め込まれたんでしょ?」
「そーなんすよ…管理とかって…」
「しっ!ちょっとここ押さえてみて」
というと、自分で鎖骨と鎖骨の間のくぼみを押さえた。言われるままに同じ場所を押さえてみた。
「ここ押さえると、通話とか会話の記録が途切れるのよ」
「へぇー!すげー!」
「オギヌマに聞いたの」
(やはり同期は同期なんだなぁ。)
「あんた、でも、このチップくそうざいと思わない?」
「いや、めちゃくちゃうざいっすよこれ、なんなんすか、ブラック企業じゃないすかこんなの…」
「でしょ?だからね、私たち、このチップを使って、逆に会社の情報を奪ってやろうと思ってんのよ。ね、ね、あんたもさ、一枚噛まない?」
私たち、というメンバーが気になったが、これはもうやらなければいけないことだと思ったのでそう言った。
「やるやる!」
「じゃあ、はい、1万円ちょうだい」
「…え?」
ヤマモトさんはがめついことで有名なのだ。人を騙してでもお金をとる、とまで言われている。この一万円は、果たして、有益なことに使われるのか、ヤマモトさんの懐にそのまま入るのか、今の俺にはわからなかった。
完 (続かない)